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返済猶予制度法案
倒産、破産の回避策になれば…
2009(平成21)年10月2日付掲載
 亀井金融相が着任早々に打ち出した「返済猶予制度(モラトリアム)」法案提出の表明で、関係各方面に大きな波紋が広がっている。法案の具体的内容は臨時国会まで分からないが、銀行協会などは初めから警戒と反発の姿勢を見せ、マスコミの論調も大半が批判的だ。

 ただ、この間の全国紙の社説やテレビコメンテーターらの主張、反応を注視すると、早とちりのほか、何らかの思惑からくる過剰反応や意図的なものも混じっているように思える。

 例えば某全国紙の9月25日付の社説には 「借りたお金を返さなくていいと国がお墨付きを与えるような制度には問題がある」という個所があるが、誤解を生む表現であり、某紙の認識違いと言える。モラトリアムとは、そんなものではない。

 ほかにも、日本史の教科書に出てくる「徳政令」という中世の「借金ご破算命令」を意味する言葉が突然、新聞の紙面や放送で飛び出す。まるで、マスコミがわざと混乱を引き起こそうとしているのではないかと疑いたくなるほどで、不適切だ。

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 今回のモラトリアム法案は、3党連立政権の政策合意で仮称「貸し渋り・貸しはがし防止法」として位置づけられたもの。100年に一度の不況とされる厳しい経営環境下にあえぐ中小・零細企業の債務や個人の住宅ローン債務の返済を3年程度猶予するといった貸付条件の緩和を可能にする内容だ。

 過去にほとんど類例のない制度の実施が機能すれば、中小・零細企業の倒産続出による大失業時代突入を回避し、更なる景気悪化を食い止める契機になるかもしれない。この法案への批判は簡単にできても、これ以上インパクトがある代案の政策を出すのは容易ではないと思える。

 しかし、気をつけねばならないのは、「民・民」の金融契約条件を国が強制的に変更させることについての問題点だ。総額250兆円とも280兆円ともいわれる金融機関の中小企業融資残高の利ざやは、仮に年利1%なら年間2・5兆〜2・8兆円になる。

 亀井金融相が明らかにしていないのに仮定の話をすべきではないが、巨額の利ざやを強権発動によって金融機関から取り上げるのは乱暴すぎるし、利ざやを3年間取り上げたことによるその後の新規融資などへの悪影響の方が心配だ。

 政府のまとめ役の金融副大臣によると、9日までにまとめる予定の法案は、中小企業の借金返済期限の延長など条件変更をし易くするものになる模様で、どうやら金融機関に返済猶予を一律で義務付けるものにはならないという。

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 あやべ市民新聞社の社長は7月から、本紙系列紙で北近畿の地方経済専門紙「両丹経済新聞」の記者として各地を歩いている。全国の中小・零細企業の経営者でつくる団体の会合にも最近は頻繁に顔を出している。そこで否応なしに入ってくるのは、各社の置かれた現在の厳しい経営状況や頑張りの情報、経営者らの本音の話だという。

 実体験から同社長は次のように主張する。「基準を定め、モラトリアムを希望する会社や個人に元金返済を3年間猶予するのはいいとしても、金利は返すべき。でないと過保護になり、本来なら経済社会の中で整理、淘汰(とうた)されるべき会社を延命させるだけのことになる」

 日本の会社の98%を占める中小・零細企業のうち真面目に生きてきた企業や個人の多くが、未曽有の不況に苦しんでいる。金融機関に対しては過去に、巨額の公的資金の注入が行われた。だから今回は、その「中小・零細企業版」と理解できないものか(ただ、仮に実施されるとした時、モラトリアムの適用基準を定めるのは極めて難しいが…)。