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次代へ受け継ごう 伝統のとち餅作り
水源の里事業の広がりで一躍脚光浴びる
技術持つ細見さん夫妻に密着
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過疎・高齢化でコミュニティーの維持や存続が困難になった水源の里(限界集落)の再生と活性化を目指す綾部市の水源の里事業は、一昨年12月の水源の里条例の制定から昨年10月の全国水源の里シンポジウムの開催、11月の全国水源の里連絡協議会の設立と全国的な広がりを見せている。市が水源の里に指定した老富町の栃と大唐内、市茅野、睦寄町古屋、五泉町市志の5集落でも地域の活性化に向け住民による様々な活動が始まった。その中で、古くからトチの実の加工技術が伝わる古屋でとち餅を作り続けている細見さん夫妻に、伝統的なとち餅の作り方を尋ねた。
古屋の山奥には昔から50〜60本のトチが自生しており、古屋の住民は25年ほど前までトチの実を採取し、灰汁(あく)抜きをして販売していた。
山に入れたのは古屋の住民だけ。採取は競争で、毎年9月になると住民らは夜明け前にこっそり家を出てトチの木を目指した。一度に男性で30キロ、女性は20キロもの実を背負って山を下りたといい、豊作の年は1シーズンに200キロもの実を採っていた。
細見さん夫妻は2人とも古屋で生まれ育ち、子どものころからトチの実の皮むきを手伝ったり、見様見真似で灰汁抜きを学んだという。自宅には加工所を造り、10年ほど前まで灰汁抜きした実を売っていた。
ところが、7〜8年前からシカが実を食べるようになり、住民でさえも実を拾わなくなっていたが昨年、水源の里事業で一部のトチの木の周りにシカ除けの防除ネットが設置されたことで30キロの実が採れ、半分を老富町に販売。水源の里老富は、この実を使ってとち餅を作り、睦寄町のあやべ温泉などで販売した。
昨年、長年培ったとち餅の加工技術が府の「農山漁村伝承技能」に登録された。とち餅作りで最も難しいのが実の灰汁を抜く作業で、味の違いは灰の質に大きく左右されるという。
とち餅作りはまず、実の加工から始まる。採取して乾燥させた実を2日間ほど水に浸けて皮と実を離したあと、40度程度のぬるま湯に浸けて皮をふやかし、昔から使われている2本の木を使った道具で実を回しながら押しつぶして皮をむく。
その実を袋に入れ、1週間ほど清流にさらして実をふやかす。実の表面にぬめりが出ないよう、流水にさらすのがコツ。
その後、実と水を1対1の割合で鍋に入れてから火にかけ、沸騰して5分程度経つと火を止めて80〜90度程度に冷ます。そして鍋ごと発泡スチロールの箱に入れ、灰汁抜きのため実と同量の灰を混ぜてふたをし、何時間もかけてゆっくり冷ます。灰汁が抜けるまでには丸1日かかる。
灰はナラやカシ、クワ、ヒノキなどの灰を使用。カシの灰を使うと灰汁がよく抜けるが、灰の量が多すぎると実が溶けるため、通常より少なめにする方が良いという。灰汁が抜けた実は白色から茶褐色に変色する。
灰汁抜きが終わると、とち餅作りが始まる。餅米とトチの実の割合は2対1。鍋の底に実を、その上から餅米を入れ、沸騰した湯の上に載せて30分ほど蒸す。
蒸し上がれば機械や、臼と杵(きね)で餅つきをするのだが、トチの実を細かく砕くため、普段の2倍の時間をかけて餅をつく。つきあがった餅は丸めて完成。砂糖醤油(じょうゆ)や、ぜんざいにして食べれば、トチ独特の風味がして実においしい。
細見さん夫婦にとってとち餅は正月に欠かせない食べ物。「帰省した子や孫に食べさせるのが楽しみ」という。「古屋に伝わる伝統技術を途絶えさせることなく、娘に教えていきたい」と話してくれた。
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おいしいとち餅の作り方教えます
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(1)昔から伝わる道具で
トチの皮をむく
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(2)皮をむいた実を
流水にさらす
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(3)1週間、水にさらした
実を湯がく
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(4)80〜90度に冷ました鍋に灰を入れて
かきまぜる
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(5)灰汁抜きした実を鍋に
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(6)実の上から餅米を入れる
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(7)30分ほど蒸す
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(8)実を細かく砕くため餅つきには
時間をかける
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(9)つき上がった餅を丸め、
とち餅の完成
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